西山スマイル介護職員や看護師の出会った、ちょっと感動するお話をお届けします。

　西山病院グループに就職して１６年が経ちました。初めは、「楽しい」よりは「辛い」の方がとても大きかったです。
　しかし、続けていく中で、入居者様からの「ありがとう」に救われながら、現在まで続けてこられました。

　先日、入居していたＯ様が亡くなられました。
　お見送りの際、Ｏ様の家族から「あなたに看取られて、お母さんもとても嬉しかったと思います。本当にありがとうございました」と、声を掛けていただきました。

　直接「ありがとう」と言ってもらえる仕事がどれだけあるでしょうか。前述した通り、私は「ありがとう」の言葉をいただくことが、一つのやりがいになっています。
　そんな、皆さまからの「ありがとう」を支えとして、より良いケアに繋げていきたいと思います。

Ｍ様は、前に入院されていた施設から、終末期医療の説明を受けている方でした。
入院時は介護抵抗や夜間不眠で大声がありましたが、5月中旬より徐々に大声はなくなり、傾眠的になることが増えました。
そして、全身状態の低下も見られるようになっていきました。

そのような中、ご本人より「家族の写真が欲しい」と希望がありました。
ちょうど、奥様とのガラス越し面会の予定があったため、面会時に写真を依頼することにしました。

当日はベッドで移動し、携帯電話を使用してガラス越し面会を実施しました。
ベッドを起こしましたが、首が後屈し、上を向いてしまう状態です。そのため、顔はしっかり見られない状態でしたが、M様は頑張って自分の目で奥様を確認することができました。
M様は返答まではなかなかできませんでしたが、携帯電話からの声はずっと聞くことができていました。
奥様が繰り返し呼びかけていると、急に「愛してるよ！！」と大きな声を出されました。
はっきりした声を出されたことにも驚きましたが、まさかそんな言葉が出るなんてと、私はとても感動してしまいました。
奥様は笑顔で「嬉しい、ありがとう」と返答されていました。
私は「Ｍ様と奥様は、仲の良いご夫婦だったんだろうな」と感じました。

私はこの一瞬で、「Ｍ様の身体の状態が低下してきていること」や「コロナ禍であり、直接触れて面会できていないもどかしさ」、「『家族の写真が欲しい』とおっしゃったM様のお気持ち」を考えました。
そして、「数分の面会であっても、ご家族との面会時間がより良いもの」になるように、関わっていきたいなと思いました。

　13年前のグループホームでのことです。
　まだ感染症についての知識が浅いまま仕事をしていた頃の1月4日。
　ある利用者様が微熱を出しました。その方はノロウイルスに感染していたのでした。
　その後、次々と感染は広まり職員にも感染してしまいました。幸いにも、私は感染することはありませんでしたが、なかなか収まらずグループホーム全体が感染してしまいます。

　当時の担当の医師や、看護部長にも協力いただきましたが、収まる気配がありませんでした。そして、私自身も不安や自己嫌悪に苛まれることが多くなってきました。
　そのような中、「終わりは必ず来るから大丈夫。僕に何かできることはないですか？」「大丈夫。今やれることをやっていきましょう。」といった言葉を担当の医師・看護部長からかけていただきました。
　2か月半で感染がようやく終息となり、ほっとして感じたことは、心のこもった言葉の大切さ。その一言で勇気をもらい、頑張る力や信じる力になるということです。あの時かけていただいた言葉は一生私の心に残り続けると思います。

　私が今できることは、長い人生を過ごしてこられた利用者様に心温まる言葉をかけていくこと。そして、それが出来るような関わりを続けていくことだと思います。

西山病院南館療養棟のレクリエーションでは、主に書道・花生け・折り紙・脳トレプリントなどを行っています。

人それぞれ歩んできた人生・趣味や興味のあるものが違います。
集団で行う体操やレクリエーションだけでなく、それ以外の個別レクリエーションも大事です。
人は、好きな事や興味がある事を見つけると生きがいになります。私たちはそのお手伝いをしています。

女性は裁縫が得意な方が多いため、お手玉・ティッシュカバー・刺し子・パッチワークなどを提供しています。
フェルトで作ったキャラクターマスコットを「お孫さんへあげる！」と張り切って作っていらっしゃったり、難易度が高いクマのぬいぐるみも、夢中になって作成されています。
2・3年たった今でも「あの時の完成品は大事にとってあるよ」と声をかけてくださいました。

レクリエーションを勧めても「別に何も興味がない」という方や「農業しかやってきていないので何も出来ない」と言って敬遠された方には、折り紙から始めていただきました。
段々と様々な物に興味が出て、先述した手芸も全て完成させていらっしゃいました。

「何もしたくない」とおっしゃる男性の入所者様は、定年退職した勤め先の動画を流すと、表情が変わり画面を食い入るようにして視聴されていました。
そして、昔あったことを私たち職員に懐かしそうに話してくれ、私も嬉しくなりました。

これからも一人ひとりに寄り添って、いつまでも自分らしい人生を送っていただくために支援していきたいと思います。

私は、医療相談員になって5年が経ちました。
相談員なりたての頃は、不安や心配ばかりで泣いてしまうこともありました。周りの先輩方に支えていただきながら、相談員としての知識や技術を身につけ、現在は以前よりも胸を張って対応することができていると感じます。

この5年、様々な出会いや別れがありました。
多くのご利用者様・ご家族様とかかわる中で、「ありがとう」「相談してよかった」「安心した」「西山病院に来てよかった」などの温かいお言葉をいただけることがあります。そういった皆様からのお言葉が、今の私のやりがいに繋がっていると感じます。

少しでも、「相談してよかった」「西山病院を選んでよかった」と思っていただけるような対応をこれからも心掛けていきたいと思います。

　”介護”とは、なんだろうか。
　介護という仕事を始めてからずっと考えてきました。介護というのは、簡潔に言えば自立支援です。ただお世話をするのではなく、残存能力を生かし、引き出すことでご利用者がよりノーマルな生活ができるように支援していくことが介護という仕事です。
　しかし、”ノーマル”という指針は分かりやすいようで、とても難解なものでもあります。
　なぜならば、ノーマルな生活といっても人それぞれ、千差万別だからです。
　ゆえに、この人にとってどんな介護が必要なのかを常に自問自答します。
　「自分はこの人たちに何ができるのだろう。何ができただろう。ありがとうと伝えているけれど、善意の押し付けにはなっていないだろうか。過剰な介護でその人の能力を抑圧していないだろうか。心の声をないがしろにしていないだろうか。」と。
　人それぞれ考え方も感じ方も違います。こちらの善意が相手にそのまま伝わるとも限りませんし、むしろ、余計なお世話になっているかもしれません。
　よりよい介護とは何なのか。
　その答えは、ご利用者の心の中にあると思います。だからこそ、少しでもご利用者の心の声を汲み取った介護ができればと思うばかりです。

　当グループのデイケアに通われているご利用者で、利用開始当初はあまり積極的に活動されていないA様がいらっしゃいました。
　職員がリハビリや活動をA様にお勧めすると、日が経つにつれて徐々にその重要性をご理解くださるようになり、「デイに来て身体が動くようになった。だから、デイに来ていないときも運動するようにしたよ！　これからもよろしくね！」と、おっしゃってくださいました。A様は、日々スタッフが提供している体操や運動を自主トレとしてご自宅でも行ってくれているそうです。A様の自主トレのお話を伺ったとき、頑張ってサービスを提供してきてよかったなと思い、とても嬉しかったのを覚えています。
　在宅生活を継続するためにも、デイにいらしているときだけでなく「デイに行かないときも」楽しく運動していただけるよう、これからも支援させていただきたいと思います。

　リハビリの効果は、「介助がなくても立てるようになった」「歩ける距離が何メートル伸びた」という目に見えて分かる変化もあれば、「膝が少し伸びやすくなった」「前より動作の手順を意識できるようになった」という目に見えて分かるとは限らないものまで様々です。
　そんな中、看護師からの声かけがあったことで、ご利用者のリハビリ効果を実感できたエピソードをご紹介します。A様は筋肉の緊張が強く、関節が動きづらいご状態でしたので、筋肉をほぐしたり関節を動かしたりするリハビリを続けられていました。
　私はA様の体が徐々に柔らかくなってきていると感じるのと同時に「自分がそう感じているだけなのかな」とも思っていました。
　ある日、看護師とA様のことを話していた際、「Aさん、柔らかくなったね」と言われて、とても嬉しかったことを覚えています。
　私たちは一人のご利用者に対して多職種で関わり、情報を共有し、より良いケアに努めています。
　これからも、それぞれが気づいた変化をお互いに伝え合うことで日々のケアに還元し、より充実した施設での生活に繋げられるようにしていきたいです。

　M様ご夫婦は、西山病院に入院する前は特別養護老人ホームで過ごされていました。
　ご主人が誤嚥性肺炎になられ、急性期病院で加療後、食事摂取が困難となってしまったことから特別養護老人ホームに戻ることができず、当院に入院されました。
　なんとか口から食べられるようにという思いから、多職種のスタッフがチームでケアに関わらせていただいたことで少しずつ経口摂取ができるようになり、M様が活力を戻されました。
　コロナ禍で面会ができない中、母（奥様）にもそんなM様の姿を見せて、また一緒に過ごさせてやりたいというご家族の思いから、最近、奥様もご主人と同じ病棟にお迎えさせていただきました。
　入院当日、早速昼食時に食堂でお隣同士の席に着いていただいたところ、お二人で手を取り合って喜ばれている光景を目にしました。それはとても微笑ましく、心温まるひとときでした。
　今までの暮らしの中で山あり谷ありだったかとは思いますが、やっぱりいつまでも夫婦で一緒に居られることが幸せなんだなぁと感じました。
　ご家族にも安心していただくことができ、M様ご夫婦をはじめご家族とスタッフ全員の気持ちがひとつになって実を結んだことを実感しました。

　私たちはいつも当たり前に朝昼晩と『食事』をしています。「毎日のメニューを考えるのが面倒」とか、その程度にしか考えていない『食事』。それが当たり前に食べられない時がいつかは来てしまいます。
　西山病院グループに勤めて２年目のこと、重度の誤嚥性肺炎を繰り返している90 歳の方が入院されました。
　食事条件は、ベッド上で背もたれを30度、要介助、水分はジャム状のとろみが必要で特殊な嚥下用スプーンを使用、副食形態はミキサー。これらを守って食事を開始しました。
　入院当初は痰がらみも著明で、食事摂取時のムセも頻回でした。そのような状況でもご本人はしっかりされていて、シルバーカーでの歩行が可能で耳が遠いだけの状態でした。
　その方は、いつも食事介助に恐縮されていた記憶があります。食に対しての意識が高く、ご本人は「自分の手で食べたい、普通（お粥）の食事が食べたい」と強いご希望をお持ちでした。なんとかできないかと多職種で連携・相談し、嚥下訓練やリハビリを行い、食事内容を何度も検討しました。度々発熱し、食事中止・点滴のみという期間もありましたが、ご本人の食事に対する強い思いと頑張りがあって、一年がかりで薄いトロミ・ひと口大・軟飯・常食にまで食事形態を上げることができました。「誤嚥性肺炎を繰り返していたから、自分で普通の食事ができるなんて思わなかった！本当によかった!!」とご家族とともに喜ばれていました。その後、在宅復帰されてご自宅へ戻られましたが、再度、誤嚥性肺炎を発症し入院されました。
　普段できていることができなくなってしまった時、人は初めてその大切さに気づきます。口から普通のご飯が食べられることもそのひとつです。改めて毎日の食事に感謝し、普通に食べられる喜びを教えていただけた出会いでした。

　”新型コロナウイルス”
　近年、この言葉を耳にタコができるほど聞くようになりました。
　私たちの生活から旅行やイベント、ご利用者やご家族にとっては面会の制限など、今まで当たり前のように生活の中にあったものがたくさん奪われてしまいました。
　しかし、人間というものは失うことでやっとその大切さを痛感するものです。
　あなたの失いたくないものは何ですか？
　このような状況になってやっと気づくのでは遅いのです。いつの間にか大切なものが当たりまえになってしまう前に、しっかりと向き合わなければならないと思います。コロナ渦であろうとなかろうと、大切なものは変わらないはずです。
　あるミュージシャンが言っていました。
　「いつ解散してしまうかもわからない。あと何回ライブできるかもわからない。そのうち、あと何回あなたが来てくれるかわからない。あなたとこうして向き合って音楽を届けることができるのが、人生であと数回かもしれない。そう思ったら、あなたとともに生きているこの瞬間がとても大切なんだ。」と。
　人生の中であとどれくらい好きなことができて、好きな人に会えて、好きなものを食べることができるでしょうか？
　終わりはいつも突然です。新型コロナウイルスによって失うものも多かったと思います。しかし、それ以上に、当たり前が失われて、より大切なものの尊さを痛感できたのではないでしょうか。
　あなたの大切なものは何ですか？
　失って後悔する前に、精一杯大切にして生きていきたいものです。少しでも早く新型コロナウイルス感染症の流行がおさまり、安心して生活できる日々が戻ってくることを願っています。

　『西山の杜』では、ご利用者をご家族と一緒にお看取りすることがあります。
　残りわずかな時間の中でご家族や職員は何を思ってご本人との時間を過ごすでしょう。
　お別れするということは、とても悲しいことです。しかし、私は、ご家族、職員ともに笑顔でご利用者をお看取りさせていただけた経験があります。
　ご利用者であるA様は、ご入居期間が短く、職員との思い出もほかの方に比べてとても少ないものでした。けれど、A様がお亡くなりになる１時間ほど前に私たち職員がお部屋に伺い、ご家族と思い出話をし、時には冗談を交えながら談笑していました。A様は、その空間の中で息をお引き取りになられました。
　ご家族と笑いながら思い出話をしてお看取りするということは「不謹慎ではないのか？」と考えましたが、ご家族から「悲しい思い出はなく、笑顔で見送れたことがとても嬉しかったです」とおっしゃっていただけた時、お看取りにもいろいろな形があるんだと思いました。
　これからも、ご本人だけでなく、ご家族にとっても悔いの残らないお見送りのお手伝いをさせていただきたいと思います。

　私が西山病院グループで働き始めて、早いもので五年目になりました。
　入職当時は、初めての社会人ということに加え、専門学校ではあまり触れてこなかった「グループホーム」での勤務ということで、不安の多い日々でした。覚えることがたくさんあって、焦りからミスばかりしていました。なんとか独り立ちしてからも、「大丈夫？」「ゆっくりでいいよ」とご利用者にご心配いただくことも多々ありました。
　「しっかり仕事をこなさなければいけない」という気持ちが先行して業務ばかりを考えてしまい、周りが見えずに一人バタバタして一日が過ぎていました。仕事を終えて帰宅してからも、「また今日もミスをしてしまった」「また今日もダメだった」と自己嫌悪に陥っていました。
　私は何度も、辞めたいな、向いてないのかなと考えました。それでも次の出勤日、足取り重くホールへ向かうと「しばらくぶりだね！」「また会えたね！」と、ご利用者のみなさまが温かく迎えて下さいました。そのおかげで今日まで勤務することができ、ご利用者に感謝しています。
　だんだん仕事にも慣れて自然と周りが見えるようになり、どうすればご利用者と一緒に行えるかもっと楽しく一緒に過ごせるかと考えられるようになってきました。
　最近では、ご利用者から「あなたがやってくれると安心だよ。」「優しいお兄さんが来てくれた。」「あなたの顔を見ると、こっちも元気になれる。」と、とても嬉しい言葉をいただけるようになりました。頑張ってこの仕事を続けていてよかったと思うのと同時に、期待を裏切らぬようなお一層精進し、身を引き締めて頑張っていきたいと思います。

　新型コロナウイルス感染拡大の中、昨年三月より当院でも面会制限が開始されました。直接会えないことは、ご利用者にもご家族にも大きなストレスを与えています。
　ご利用者のA様もまたご家族の面会をとても楽しみにされておられ、ご家族ともにお互いを大切に想われていらっしゃいました。
　今年のお正月、A様が「外泊したい」と希望されましたが、それを叶えることは難しい状態でした。
　そんな中、A様の意識レベルの低下がみられ、寝たきりそして看取りの状態となってしまったのです。
　ご家族は、面会が自由にできないのなら「最後は自宅で家族とともに過ごさせてあげたい」と自宅でのお看取りをご希望されました。しかし、A様は、喀痰吸引、オムツ交換、体位変換、口腔ケア…と介助量が非常に多いため、在宅介護を選択されることに私たち職員は戸惑いました。それでもきっとA様も同じ思いであろうと、決意されたご家族をサポートし、ぜひ叶えて差し上げたいと思いました。
　死期が迫る中、二週間後の退院を目標に急ピッチで退院準備を行うこととなりました。面会制限下では、退院指導にも日数と時間の制限があり、日程調整と指導の方法に苦労しました。しかし、指導のためにご家族が訪れると、毎回来られたことが分かり、柔和な顔をみせるA様を見て、ご家族の選択は間違っていないと思いました。
　短期間での訪問看護、訪問介護、訪問入浴、訪問診療、ベッドや吸引器、エアマットなどの物品準備の調整には、居宅ケアマネジャーと各在宅サービスの方々に本当にご尽力いただきました。
　退院当日も、一階のロビーでご家族と対面すると、A様が柔和なお顔をされていました。
　それからA様は、数日を自宅で過ごし、旅立たれたそうです。A様が大切に想っていた自宅で、ご家族に見守られながら最後を迎えられて本当に良かったです。私自身も今回の経験は、看護師としても施設ケアマネジャーとしても多くのことを学ばせていただきました。

　デイケアでは、思いがけない出会いが生まれることがあります。
　長年、デイケアに通われているＳ様と通い始めたばかりのＫ様のお話です。初めてお二人がお会いした時、お顔を合わせた途端にどちらからともなく「あら～、お久しぶりですね。お元気でしたか？」と言葉をかけられていました。その様子に職員が、「お二人はお知り合いですか？」と尋ねると、同級生だったことやさらには職場の同僚だったことを教えてくださいました。
　デイケアは西山病院グループ以外にも数多くありますが、お二人は偶然、当デイケアで再会されたそうで、大変驚かれていました。
　学生時代の思い出を語るお二人の姿は女学生のように可愛らしく、私の目には微笑ましく映りました。
　元気にデイケアへ通われているお二人の日々が、青春時代や職場での思い出とともに脳裏に焼き付いて、素敵な思い出の一ページとなるようより良い毎日のために職員一同でお力添えできればと思っています。

　私たちが日々リハビリを提供させていただく中で、ご利用者が劇的に改善したりするような変化が起こることはあまりありません。大抵は、変化に気がつかずに過ぎ去ってしまったり、すぐには気がつかないほどささやかなものだったり。けれど、そんなとても「ささやかな変化」にほっこりした、あるエピソードを紹介させていただきます。
　失語症でなかなか言葉を発せられない、あるご利用者A様がいらっしゃいます。
　A様は、ふだん「あーあーあー」とだけ発声されていて、何を伝えようとされているのか分かりづらいことがほとんどです。しかし、覚醒が良かったある日のことです。リハビリの運動中にスタッフが「一、二、三…」とカウントするのに合わせてA様が、「あー、あー、あー…」と発声してくださったのです。
　コミュニケーションが取りづらい方の場合、ご本人の気持ちを伺うことが難しいため、「このリハビリは嫌じゃないかな？」「辛くないかな？」と気になっても、確認できないことが多々あります。
　今回、リハビリでA様が一緒にカウントしてくださった様子を拝見し、言葉がわからなくても前向きにリハビリに参加されていることが分かり、とても嬉しかったです。
　これからもこのようなご利用者の「ささやかな変化」を見落とさないように、リハビリを継続していきたいと思います。

　ご利用者よりありがたいお言葉をいただきましたので、紹介させていただきます。

『私の言ったことが、すぐ職員全員に伝わる』
　その処置の早さに感動しています。

『大変なことも、大声を出さずに静かに処理する』
　組織の運営は大変と思いますが、よく行き届いております。

『食べる時はテレビを消して、音楽を流す』
　食事前はテレビを放映していますが、食事中は音楽が流れます。曲の中には知らないものもありますが、懐かしい曲もあり、とても癒しになります。何でもないことですが、嬉しいです。

『医師・リハビリの先生・看護師・介護士等全員が、患者の一人ひとりに寄り添い、西洋のナイチンゲールのような心で面倒をみてくださる』
　今まで何カ所かの病院に入退院を繰り返してきましたが、念願叶って家の近くでもある西山病院に入院しましたが、こちらで驚き感心したことです。ご利用者はみなさん、このあたたかい心にすがって必死に生きようとしています。今後も何卒よろしくお願い申し上げます。

　これらのお言葉を胸に、今後も心のこもったケアに励んでまいります。

　現在、新型コロナウイルス感染予防により、今まで当たり前のようにできていたご家族との面会や外出などができない状況にあります。
　そんな中、ご利用者に何か新年の気分を味わっていただきたいと療養棟職員が何気なく発したひと言で、施設課職員に立派な鳥居を作ってもらうことができました。
　その完成度に驚きつつ、今年のお正月はひと味もふた味も違うお正月になると職員もワクワクしました。鳥居だけでなく、社や賽銭箱、おみくじまで加わり、その名も「長寿神社」の完成です。
　新年となり、ご利用者に声をかけると神社の前にはすぐに長蛇の列ができました。
　「コロナ渦なのに密だね。」と笑いながら、鳥居の前ではご自身やご家族の健康を願う方、中には普段車いすでうつむき加減に座っている方が背筋を伸ばして熱心にお参りをされていました。
　参拝後は特別に用意した甘酒をひと口。
　「うんめえなぁ。」と、お顔を上げて喜ばれるご利用者の姿を拝見して、とてもうれしく思いました。
　このささやかなイベントでみなさまの明るい表情を見られたこと、一緒に参拝させていただけたこと、何気ないひと言がこんなに大きな形となったことに感動しました。
　まだまだ先の見えない状況ではありますが、ご利用者に安心して生活していただけるよう、私たち職員一同、これからも頑張っていきたいと思います。

　「○○さん（ご利用者）最近来てないけど、どうかしたの？」と、Y様が私に尋ねてこられました。
　デイケアではご利用者の入れ替わりがあります。長く通所されているご利用者がいる一方、ご利用者の体調やご家族の都合で中止される方もいらっしゃいます。
　Y様は長年ご利用されています。ほかのご利用者との交流が良好で、ゲーム等のレクリエーションにも参加され、リハビリに対しても意欲的です。
　そのY様から、「一寸先は闇だからね。私もいつデイに来られなくなるか分からんから、今のうちに言っておくね。Tさんをはじめ、職員には感謝しかないよ。今まで本当にありがとう。」とお言葉をいただき、はっとさせられました。
　普段、介護やレクリエーションをしている時は気がつきませんでしたが、どのご利用者も『いつどうなるかわからない』という不安を持って生活されていることに改めて気づかされました。
　これからはご利用者の不安なお気持ちを少しでも軽減できるよう、「一人ひとりに寄り添った介護」をしていきたいと思います。
　大切なことに気づかせてくださったY様、「こちらこそ本当にありがとうございます。」

　脳出血を繰り返す中で、嚥下機能の低下のため、経管栄養の状態で急性期病院から転院されてきたご利用者のお話です。
　ご家族からのご要望は、
『本人の状態が安定したら鼻に入った管をとってあげたい』
『口から栄養を摂ることで刺激を与えたい』
鼻の管を嫌がっていると思うので、どうにかして外せないかとのご相談でした。
　時々、ご自分で管を抜いてしまわれるのでお嫌なのは理解していたものの長期間食事をお口から摂取されていなかったため、様々なリスクが高く、外すかどうか悩みました。
　外せばご本人のストレスがなくなるメリットもありますが、誤嚥性の肺炎や状態の急変が起こりうるデメリットがあることをご家族に説明させていただき、まずは胃ろう造設をすることから始めました。
　胃ろうを造設後、口からの摂取をごく少量から始めました。様子を見ながら少しずつ進めたことで、現在は三度の食事を車いすに乗って食堂でとることができています。
　ご家族は食事時に面会にいらして、食事介助をお手伝いいただいています。
　お食事会のイベントにもご参加いただき、レストランのような雰囲気を楽しんでもらう
こともできました。
　ご家族から「ベッドでずっと寝ているときと表情が全然違う。やってよかった。」とおっしゃっていただいたときはとても嬉しかったです。
　長い療養生活のなかで、ご利用者とご家族に寄り添う看護をこれからも提供していきたいと思いました。