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西山スマイル介護職員や看護師の出会った、ちょっと感動するお話をお届けします。

2019.05.13患者様の希望を叶えるために
看護師/M
 S様男性のお話です。
 40歳頃から不安症、73歳頃より下顎の不随意運動があり、神経症のため精神科病院に入退院を繰り返されるようになりました。心的要因や不随意運動により食事ができず、腸捻転により絶食、高カロリー輸液が開始となり、当院へ入院となりました。
 当初、誤嚥性肺炎を繰り返され、徐々に自ら動くことが難しくなっていきました。S様は神経症のため、「ガクガクが苦しい、死にたい、眠りたい」など不随意運動による苦痛や悲観的感情を常に訴えられましたが、私たちは傾聴するケアしかできませんでした。自分の辛い気持ちが解ってもらえないと感情をぶつけられることが度々あり、ご家族もご自宅での介護にお疲れのようでした。
 日々全身衰弱が進行し、「家に帰りたい、ビールを飲みたい」などと訴えられ、病棟内でターミナルケアの話し合いを持ちました。その中で、S様の「家に帰りたい」というご希望を叶えてあげてはという意見が挙がったことをご家族に伝えました。最初は驚き、大変さが目に見える、とご不安の声が聞かれましたが、「看護師さんからそのように声をかけてもらえて嬉しい。本人のために実現してあげたい。自分たちだけで介護することは心配だけど、付き添ってもらえるならありがたい」というお言葉をいただき、実現することになりました。
 ご自宅へ帰られる前日、S様は「ガクガクが苦しくてとても…」と否定的でしたが、奥様や娘さんはS様と自宅に行きたいとお話しされていることや前向きな気持ちをもってくださいとお伝えしました。当日の朝、「一緒に行きましょうね」とS様に声をかけるとゆっくり頷いてくださいました。
 行きの車では窓からの景色を眺められながら「この辺りは仕事でよく来た。こっちの方が近道」と話され、綺麗に咲いている桜もご覧になっていました。ご自宅に到着するとご親族が笑顔で出迎えてくださいました。その時、S様に目をやると涙が頬をつたい、いつもと違う穏やかな表情をされていました。
 車いすでの外出でしたが、ご家族と写真撮影をされて、「ここがお庭」とS様が手掛けられたお庭を見せてくださったり、「アイスが食べたい」とモナカを少量口にされたりしました。
 奥様は「一年ぶりに口から食べた」と喜ばれていました。
 病院に戻り、S様に「ご自宅に帰られてよかったですか?」と伺うと、目を閉じられたまま何もお答えにならず手を振られるだけでしたが、奥様と娘さんは「本当にありがとうございます」と涙を浮かべてくださいました。
 今回、このようなケアが実現できたことに感謝しています。S様やご家族の喜びあふれる時間を共有させていただけたことは、私にとって看護観の自己実現に繋がりました。
 また、職員もS様個人と向き合って病棟としてできることを話し合い、ご利用者とご家族のご希望を叶えて差し上げられたことで、みんながとても温かい気持ちになりました。これからさらなるいいケアができるのではという予感がしました。

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